リンとくる病

リンとくる病

リンの摂取量

 リンは食品中に大量に含まれています。国民栄養調査の結果によると、日本人成人では1日約1gのリンを食品から摂取しています。しかし、この結果に「隠れたリン酸摂取」は含まれていません。原材料にリン酸塩が添加されている食品を加工した場合には、添加剤としてリン酸塩は表示されないからです。このような形で食品から摂取する量を加えると、通常の食事をしている限り、リンの摂取不足は起こりません。

 通常の食事摂取では尿中に650mgのリンが毎日排出されていますが、吸収されるリンが減少すると、腎臓は尿中へ排出するのをやめ、リンを維持しようとします。つまり、血液中のリン濃度は腎臓によって調節されているのです。

血液中のリン濃度の低下

 腎臓からリンが漏れるために血液中のリン濃度が下がり、くる病が発症します。このときはビタミンDの欠乏とは違い、カルシウム濃度には変化が起きません。このため、副甲状腺ホルモンの分泌も増加しません。

 腎臓からリンが漏れる原因としては、腎臓でリンの排泄を調節している場所(腎尿細管)に障害があって起きる場合と、腎臓自体には異常がなく、線維芽細胞増殖因子23(FGF23)というリンの排泄を増やすホルモンが異常に増加している場合の2つがあります。

 前者は生まれつきの腎臓の異常や、薬物の副作用で起き、ファンコニ症候群と呼ばれます。この場合はほかのもの、たとえば重炭酸イオンも漏れるので、血液が酸性になることが多いです。後者では純粋に低リン血症だけが起こります。

 後者のうち、最も多い疾患が家族性低リン血症性くる病で、その中でもXLH(X-linked hypophosphatemic rickets)の頻度が最も高いです。この病気は伴性顕性遺伝形式で遺伝しますが、1/3の患者は家族にこの病気を持たず新たに発生すると考えられます。

 家族歴がない場合は、1歳から2歳の間で歩行の遅れやO脚で発見されますが、女児は軽症の場合があるので見逃されることがあるかもしれません。XLHはX染色体上のPHEXという遺伝子の変異によって発症することが分かっていますが、この遺伝子の変異がどのようにしてFGF23を増やすのかは、現時点でははっきりとは解明されていません。

 違う遺伝子の変異によって同じようなくる病が発症することも分かっていますが、これらの病気は非常にまれなものです。

低リン血症性くる病の治療

 腎臓の異常によってリンが漏れる場合にはリン酸塩を補充すれば治癒しますが、FGF23が増加しているXLHのような病気ではリン酸塩の補充だけでは治療は難しいとされています。リン酸塩は、十分な量を内服すると副甲状腺機能亢進症といって副甲状腺ホルモンが増えて高カルシウム血症になったり、腎結石が起きたりします。

 通常、この病気の治療では活性型ビタミンD製剤とリン酸塩を併用します。この治療によってX線写真のくる病性変化は治り、O脚も良くなってきますが、完全にまっすぐな脚にするのは難しいです。また、尿や血液の検査をしながらお薬を調整しますが、腎結石ができたり副甲状腺機能亢進症になったりすることもまれではありません。

 このため、FGF23の働きを抑える薬が開発され、2019年から、FGF23関連低リン血症性くる病・骨軟化症に保険診療で使用できるようになりました。

 大人になると成長軟骨がなくなり、くる病は起こらなくなるうえ、リンの必要量も減ってくるので、少量のリン酸塩の内服、もしくは少量の活性型ビタミンDの投与が行われるのが一般的ですが、治療を終了することもあります。

 治療のあるなしにかかわらず、中年以降になるとこの病気では不思議なことに、靱帯の骨化が起きやすくなります。背骨を上下につないでいる靱帯が骨に置き換わる病気は後縦靱帯骨化症といいますが、この病気の合併が多いといわれています。骨関節症、偽骨折*がみられることもあります。

*骨を横断しない骨折

くる病の分類
図1
**尿の中に排泄された必要な成分を再吸収する部分

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