軟骨異栄養症の治療

合併症

成長ホルモン治療に関連する合併症

 成長ホルモン製剤が、骨端線閉鎖を伴わない軟骨異栄養症における低身長の治療に承認された当時、成長ホルモン製剤の投与による骨格の変形の増悪や水頭症などの合併症の発生が懸念されました。

 軟骨異栄養症では、軟骨からの骨の形成(内軟骨性骨化)に異常が生じますが、軟骨が関係しない骨の形成(膜性骨化)には異常がありません。成長ホルモン製剤の投与で内軟骨性骨化が刺激されると、今までかろうじて維持されていた内軟骨性骨化と膜性骨化のバランスが壊れるのではないかということです。

 O脚を合併した軟骨異栄養症の患者さんにソマトロピン(遺伝子組換え)を投与したところ、O脚が悪化し、手術を受けた患者さんの事例が報告されています。

 また、3歳までの軟骨異栄養症に合併する水頭症は、内軟骨性骨化によってつくられてくる頭蓋底が形成不良で、頭から出ていく静脈が通過する骨の穴が小さく、静脈が圧迫されて脳脊髄液の吸収が悪くなっていることが原因だと考えられています。

 同じ理由で、脊髄が通る穴である大後頭孔も小さく、神経、つまり脊髄や呼吸中枢のある延髄を圧迫することがあります。これによって軟骨異栄養症の最も重篤な合併症である突然死が発生する可能性があります。

 日本小児内分泌学会の「軟骨無形成症診療ガイドライン」では、成長ホルモン治療の開始年齢を「3歳程度以上」としています。脳脊髄の収納スペースの発育は3歳までにはほとんど完成しているからです。

環軸椎(くびの骨の一部)の亜脱臼

 軟骨異栄養症の合併症に、環軸椎の亜脱臼もあります。

 頭蓋骨を乗せる第一頸椎は輪の形をしていますが、この輪のなかに次の第二頸椎の歯状突起が入り込み、首の回旋運動を行うために必要な関節をつくっています。軟骨異栄養症ではこの軸となる第二頸椎の歯状突起が小さく、無理な力がかかるとずれてしまいます。これが環軸椎の亜脱臼です。このような合併症を避けるためにはマット運動は避けるべきです。

中耳炎といびき・睡眠時無呼吸

 骨の合併症以外に、軟骨異栄養症で多くみられるのが中耳炎と睡眠障害です。頭蓋底が小さいために鼻からの空気の通り道が狭くなっていて、これにアデノイド(のどの上部にあるリンパ組織)や扁桃の肥大が加わるとさらに空気の通り道は狭くなります。また、子どもでは中耳と鼻腔を結ぶ管がほとんど水平に走っています。これら2つの理由で、鼻のなかから細菌が中耳に入り込みやすくなっています。そのために中耳炎が多いのです。

 この状況は、通常の子どもに起きる中耳炎と変わりがありません。肺炎球菌は中耳炎の原因菌となりやすいので、感染予防には肺炎球菌ワクチンの接種が重要です。

 軟骨異栄養症では、就学前の患児の95%、学童患児の90%にいびきが観察され、そのためそれぞれ45%、20%が無呼吸を示すことが分かっています。また患児全体の85~90%は口呼吸を示すことも知られています。

 これも空気の通り道が狭いために起きる合併症です。成長ホルモンはリンパ組織を大きくする作用があることから、成長ホルモン治療で空気の通り道はさらに狭くなる恐れがあります。

 7~8歳まで、リンパ組織は大きくなっていきます。専門的な検査で無呼吸の状態を定期的に評価し、経鼻的持続陽圧呼吸療法(continuous positive airway pressure:CPAP)などの呼吸補助の導入やアデノイド切除、扁桃摘除を考える必要があります。

JP21NORD00120